2017年12月31日

来し方行く末

読みに迷いませんか?
「きしかた」と「こしかた」どちらが正しいの?

辞書にはどちらの読みも載っていました。
「来し方」の意味は、
「きしかた」も「こしかた」も同じです。

「来し方」(きしかた/こしかた)
「き」は動詞「く」の連用形
「し」は過去の助動詞「き」の連体形
1、過ぎ去った時。過去。
2、通り過ぎてきた場所・方向。

平安時代中期までは、意味の区別があったようです。

「きしかた」
過ごしてきた時間・過去。

「こしかた」
通ってきた所・方向。

「きしかた」は “時間的” な意味。
「こしかた」は “空間的” な意味。
という使い分けがありましたが、
平安末期から乱れ、しだいに区別が消えていったようです。

どの辞書を見ても、
「来し方行く末」には、
それぞれに “時” と “空間” 両方の意味が含まれています。

<大辞林>
「きしかたゆくすえ」
1、過ごしてきた日々とこれから先の日々。
2、来た方向とこれから行く方向。

「こしかたゆくすえ」
1、過去と未来。前後。
2、通り過ぎてきた方向と、これからの行く先。


<デジタル大辞泉>
「きしかたゆくすえ」
1、過去と未来。来し方行く先。
2、過ぎてきた方向・場所と、これから行く方向・場所。来し方行く先。

「こしかたゆくすえ」
1、過去と未来。
2、通り過ぎてきた方向と、これから行く方向。


いよいよ明日は新年。
今年最後の語は、いまさらながらの「大晦日」。

「大晦日」(おおみそか/おおつごもり)
1年の最終の日。

「晦」 カイ・つごもり・くら-い・みそか
1、みそか。陰暦で月の末日。
2、夜。やみ。
3、よくわからない。
4、くらます。姿をかくす。

「晦」(つごもり)は「月隠り」(つきごもり)の音変化で、
月が隠れる意。
陰暦では、月が隠れる頃が月末になるため。
月の最後の日。

「晦日」(かいじつ/みそか/つごもり)とは、
月の末日のこと。

「みそか」は「三十日」由来ですが、
日付に関係なく、月の最終日を言うようになり、
「みそか」に「晦日」の字が当てられるようになりました。

大晦日のことを「除日」とも言います。
「除日」(じょじつ)は、
“古い年を除き去り、新年を迎える日” で、
「除日」の夜が「除夜」でした。

除夜の鐘は宋時代の中国から
鎌倉時代の日本に伝わったそうです。
800年以上も続いているんですね。
除夜の鐘が響いてくると、
鐘の音に世界が清められ、包まれている感じがします。




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2017年12月30日

襟度(きんど)

人を受けいれる心の広さ。度量。

「海賊とよばれた男」を読み始めたところで目にした語です。
難しくない漢字の組み合わせですが、意味を推測できませんでした。
故事かと思いましたが、単なる熟語で語源などもありません。
いつものように熟語を分解して納得したいと思います。

「襟」キン
1、えり。
2、胸のうち。心。

「えり」には「襟」と「衿」がありますが、その違いは?
「襟」 *常用漢字
1、衣服のえり。
2、胸。心のうち。

「衿」 *常用漢字ではない
着物のえり。

通常 洋服のえりは「襟」、
和服のえりは「衿」が使われています。

「領」も “えり” の意があります。
首筋。うなじ。着物のえり。

“えり” の熟語に「領袖」があります。
「領袖」(りょうしゅう)
えりとそでは人目に立つところから、
人を率いてその長となる人物。ある集団の中の主となる人物。
「派閥の領袖は・・・」などと政治ニュースで聞かれますが、
用例がほぼ政治関係に限られているような気がします。

次に「度」の意味を確認すると、
意味が9つもあって、その一つに
“示される言動や心の様子” とありました。
度胸・度量・襟度・態度などの熟語があります。
そんな意味があることも知らずに使っていました。

“胸のうち” “心のうち” という意の熟語には、
胸襟・襟懐・心中・胸中・胸裡・胸臆・胸間・胸懐・
といった語があります。

類語に、
「肝胆」(かんたん)という語がありました。
1、肝臓と胆嚢。
2、心の奥底。真実の心。

「肝胆相照らす」(かんたんあいてらす)
お互いの心の底まで打ち明けて親しくつきあうこと。

「肝胆を砕く」(かんたんをくだく)
真心を尽くす。一所懸命になってする。
・計画の実現に肝胆を砕く

一字違いでこんな故事成語も見つけました。

「肺肝を砕く」(はいかんをくだく)
非常に苦心する。心を砕く。

こちらは「肺」と「肝臓」です。
由来は杜甫の詩。
元来は、ひどく失望して心が打ち砕かれる意でしたが、
難問などに苦慮するという意味にも用いられるようになりました。




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2017年12月29日

おおわらわ

一生懸命になること。
夢中になってことをすること。

先日、
夕食の汁物をカーペットに盛大にぶちまけてしまいました。
自分にバカバカと言いながら後始末をしました。
その時に “おおわらわ” という語が思い浮かびました。
「おおわらわ」に慌てふためいているイメージがあったのですが、
辞書をみて、ちょっとニュアンスが違うことに気づきました。

「おおわらわ」の漢字が思いつきませんでした。
「大童」(おおわらわ)なんです。
大きな子供?

語源辞典を見てわかりました。
「童」は元服前の3〜10才の子供のこと。
また子供のおかっぱ頭の髪形もいいます。
戦場で兜を脱ぎ捨てると髪が乱れ、
童のようになるところから、
髪をふり乱して戦かうさまが「大きな童」で「大童」。

「童」(わらわ)/(わらは)
1、束ねないで、垂らしたままの髪。
また、そうした10歳前後の子供。童児。わらべ。
2、使い走りの子供。召使い。
3、寺院で召し使う少年。

「おおわらわ」に似た意味に
「てんてこ舞い」がありますが、
こちらは太鼓の音に合わせて舞うこと。
由来を比べると深刻度が違いますね。

“驚きあわてる”という表現に、
「泡を食う」(あわをくう)がありました。

子供の「童」は、読みがいろいろあります。
わらべ・わらし・わらわ・わらんべ・わっぱ

「わっぱ」
「わらわ」の音変化
1、子供をののしっていう語。子供。
2、年少の奉公人。小僧。
3、男子が自分のことを卑下していう語。
4、横暴な人。あばれ者。乱暴者。

ところで、
「児童」と言った場合、
学校教育法と児童福祉法でとらえかたが違うんですね。
学校教育法では満6歳から12歳の学齢児童を指し、
児童福祉法では満18歳未満の者を指し、
乳児・幼児・少年に分けます。
少年は小学校就学から満18歳に達するまで。





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2017年12月28日

指南(しなん)

教え導くこと。
(指南車が南の方角を示して導くところから)

Webに、なぜ “南を指す” ことが導くことになるのか?
という質問がありました。
言われてみればそうですね。
しかし確固内の説明わかります?
指南車って何ですか?

「指南車」とは、
古代の中国で、馬に引かせる車の上に人形を取り付けて、
その人形が常に南を指さしているような仕掛けを施したもの。
簡明に言えば、方位磁石が取り付けられた車。
その磁石の部分が手を伸ばした人形になっています。
その人形の画像がありました↓
http://blogs.yahoo.co.jp/kbqbh446/30649079.html

指南車のイメージがわかったところで、
意味の説明に戻ります。
指南車はやがて「指南」と略され、
人に方向や進路を教え導く意となります。
さらに「手引き」という意味にもなり、
手引書を「指南書」というようになりました。

江戸時代には武芸などを教授する役を
「指南番」というようになり、
転じて指導する者も「指南」というようになりました。
「指南」を検索すると2億件もヒットして
今も活発に使われている語だということがわかりました。

もう一つ、そういえばと思う質問がありました。
Q、「大きく切る」と書いて、
どうして “大事” の意味になるのですか?

A、「切」を見ると “きる” がすぐ頭に浮かびますが、
他にも意味があります。
1、心に強く感ずるさま。身にしみるさま。
2、一生懸命事を行うさま。熱心。
3、物事のさし迫っているさま。

「大切」は “大いに-迫る” 意を漢字表記し、
音読みさせた和声漢語。
“緊急を要するさま” から
平安末期には “肝要なさま” の意味で用いられ、
中世には “かけがえのないもの” から
“心から愛する” という意味としても使われました。

漢字の「きる」には、
「切る/斬る/伐る/截る/剪る」とあります。
使い分けは、
「斬る」---人
「伐る」---立ち木
「剪る」---枝・葉・花など
「截る」---布・紙など

「切る」は広くいろいろな場面で使われています。
・たんかを切る
・見得を切る
・ハンドルを切る
・弱り切る
・白を切る
・仁義を切る
・十字を切る

さらに、
「久離をきる」(きゅうりをきる)
という見なれない表現がありました。
親族などの関係を断つ。

「久離/旧離」とは、
江戸時代、失踪・非行などを行なった子供や親族などの関係を断つこと。
この手続きをすると、連帯責任を免れることができました。




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2017年12月27日

政治スローガンとして使われた四字熟語

2014年12月18日の日経で、
今年を表す創作四字熟語というのがありました。

●青光褒祝
“成功報酬” をもじった青色LEDのノーベル賞

●蚊無安全
“家内安全” をもじったデング熱

私はサラリーマン川柳が悲哀を含んだ笑いで好きなのですが、
創作四字熟語も皮肉やユーモアがギュと込められて面白そうです。

四字熟語といえば、日経の春秋に、
政治スローガンとして利用された四字熟語が紹介されていました。
知らない語もあって書き留めていました。
江戸末期から大戦を経て平成まで、おおよその時代順に並べてみました。

武力討幕、尊王攘夷、大政奉還、公武合体、廃藩置県
天賦人権、文明開化、自由民権、富国強兵、殖産興業
三国同盟、億兆一心、万世一系
五族協和、国体明徴、滅私奉公
鬼畜米英、一死報国、七生報国、八紘一宇
安保反対、所得倍増、列島改革、経済大国
政権交代、成長戦略、岩盤規制、構造改革

「五族協和」(ごぞくきょうわ)
満州国の民族政策の標語。
満州族・大和族・漢族・モンゴル族・朝鮮族の五民族が協調して暮らせる国を目指した。

「八紘一宇」(はっこういちう)
全世界を一つにまとめて、一家のように和合させること。
第二次大戦のとき日本が国家の理念として打ち出し、
海外進出を正当化するスローガンとして用いた。
「八紘」は天地の八方の隅、地の果てまでの意。
「宇」は家の意。

「一死報国」(いっしほうこく)
一命を捨てて国のために尽くすこと。

「七生報国」(しちしょうほうこく)
例え死んだとしても、七度生き返って国のために報いること。

私は「滅私奉公」を勘違いしていて、
「丁稚奉公」のような “無給で奉公すること” と思っていました。
「滅私奉公」の正しい意味は、
私利私欲を捨てて社会や国家などの公のために尽くすこと。

もうすぐ「千兆返済」なんてスローガンが出てこないでしょうか。





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2017年12月26日

緒に就く(しょにつく)

「緒に就く」はいつも読みに迷いが生じます。
正しい読みは「しょにつく」ですが、
慣用音として「ちょにつく」が認められていて、
半々くらいの勢力になっているような気がします。

今回、複数の辞書を当たってみて、
辞書によって少しばかり意味の幅があることに気づきました。
“物事に着手する” というところは共通なのですが、
“着手した物事の見通しがついて軌道に乗りだす” や
“物事がある目的や計画に沿って進んで行く糸口ができる” や
“物事の見通しがついて事を始める”
などの意味があってちょっと混乱しました。
類語として「見通しが付く」が載っていることもあり、
着手だけでなくその先までも意味するのかと認識を新たにしました。

「緒」
物事の初め。いとぐち。

「端緒」(たんしょ/たんちょ)
物事の始まり。いとぐち。手がかり。

「端緒」の表現としては、
・端緒を開く
・端緒をつかむ

「緒」の呉音は「ジョ」、漢音は「ショ」
そして慣用音が「チョ」
知りませんでしたが、
「緒戦」「緒論」「緒言」「情緒」にも慣用音「チョ」がありました。
私の場合は「チョ」と読むのは「情緒」のみ。
「一緒」と「由緒」は「チョ」とは読まれません。
「いっちょ」「ゆいちょ」だと幼児語みたいです。

「就く」は「付く」と同源。
・帰途に就く
・眠りに就く
・床に就く
・職務に就く
・任務に就く
などは「就く」が当てられ、
「嘘をつく」「ため息をつく」は「吐く」
鐘は「撞く」、米は「搗く」です。





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2017年12月25日

拠出(きょしゅつ)

確定拠出年金、国連拠出金など、
○○拠出金でよく目にする「拠出」ですが、実は当て字でした。
本来は「醵出」。

「醵」は 金銭を出し合って酒を飲むという意味があります。
「醵出」(きょしゅつ)
ある目的のために金品を出しあうこと。

一方、
根拠、拠点、証拠 などの「拠」は "よりかかる" という意味です。
「拠」に置き換わっているのは、
「醵」が常用漢字ではないためです。

常用漢字でない字は仮名で書くか他の字を代用することになるため、
意味的には少しずれている「拠出」という熟語になってしまいました。
「義捐金」もそうです。
「義援金」になっています。

「捐」エン
1、すてる。
2、金を出す。寄付する。

他にも代用されている熟語はたくさんあります。
ケツ「訣別」→「決別」 
デン「沈澱」→「沈殿」 
ハツ「反撥」→「反発」
ソウ「綜合」→「総合」

一方、置き換えができない熟語もあります。
「秘訣」ケツ、デン「澱粉」、ハツ「撥音便」、
テン「顛末」、「錯綜」ソウ、モウ「妄動」、
「研磨」マ、「蝕甚」(ショクジン)

「顛」テン
1、てっぺん。物の先端。
2、逆さになる。ひっくり返る。

「蝕甚」(しょくじん)
日食または月食で、太陽や月が最も大きく欠けた状態。

2010年11月30日の告示で常用漢字表に追加されて、
元々の熟語が使用できるようになったもの。
アン「闇夜」、「肝腎」ジン、ギ「伎倆」、
「決潰」カイ、「広汎」ハン、「破毀」キ、「理窟」クツ
※「壊滅」は「潰滅」の書き換え以前から存在する熟語のようです。

元々 異なる意味の熟語が混同されているものもあります。
「掩護」と「援護」
掩護---敵の攻撃から、味方の行動を守ること。
援護---困っている人を助け守ること。

「綺談」と「奇談」
綺談---巧みに作られた、面白い話のこと。
奇談---変わった、珍しい話のこと。不思議な話。

「蒐集」と「収集」
蒐集---趣味や研究などのために、ある種の物や資料をたくさん集めること。
収集---寄せ集めること。

「棲息」と「生息」
棲息---ある場所に棲むこと。生物学では動物についていう。
生息---生きて生活すること。生存すること。生物学では植物についていう。

「椿事」と「珍事」
椿事---思いがけない大変な出来事。
珍事---めずらしい出来事。




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2017年12月24日

洒落

「洒落」には、
「しゃれ」と「しゃらく」があります。

「洒落」(しゃれ)
動詞「しゃれる」の連用形から。
「洒落」は当て字。
1、気のきいたようす
2、身なりをかざること。おしゃれ。
3、言葉のしゃれ

「洒落」(しゃらく)
心がさっぱりとしてわだかまりがないこと。

「洒落」の語源は、
「晒れ」(され)・「戯れ」(され)が転じたものとされています。
「晒る」は、風雨や日光にさらされて白っぽくなる意。
「戯る」は、“たわむれる” 意。

室町時代以降に「され」が「しゃれ」となり、
漢語の「洒落」(しゃらく)が意味も音も似ていたため、
江戸時代前期頃から、
「しゃれ」の当て字として使われるようになりました。

「洒」
呉音:サイ・シャ・セ
漢音:サ・サイ・セイ
旁の「西」は 木を組み合わせたざる状のものを表す象形文字。
1、あらう
2、そそぐ
3、すっきりした

「洒脱」(しゃだつ)
俗気がなく、さっぱりしていること。
あかぬけしていること。

「洒々落々」(しゃしゃらくらく)
さっぱりとして物事にとらわれないさま。

「軽妙洒脱」(けいみょうしゃだつ)
会話や文章などが、軽やかで洗練されていること。

「洒落臭い」(しゃらくさい)
しゃれたまねをする。小生意気だ。

時代劇の「しゃらくせぇ!」っていう捨て台詞が、
個人的には、いなせで好きです。


最後に、洒落言葉をいくつか紹介します。

「冬の蛙」(寒蛙 かん-カエル)-- 考える=NO
「急な夕立」(傘がない)-- 貸さない
「金槌の川流れ」-- 頭が上がらぬ
「植木屋の庭」(木が多い)-- 気が多い
「うどん屋の釜」(湯ばかり)-- 言うばかり
「芸者の羽織」(紋なし)-- 文無し
「材木屋の泥棒」(木盗る)-- きどっている
「魚屋のゴミ箱」(アラ溜まっている)-- 改まっている
「塗り箸にとろろ」(一向にかからん)-- だまされない
「餅のない汁粉」(餡汁)-- 案じるばかり
「屋台の提灯」(ぶらぶらしている)-- 働かない
「夜明けの幽霊」-- いつの間にやら立ち消えや




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2017年12月23日

かぶき者

前回、主に南北時代に流行った「ばさら」について書きましたが、
その後、戦国時代末期から江戸時代初期にかけては
「かぶき者」が登場します。

異風を好み、派手な身なりをして、
常識を逸脱した行動に走る者たちです。
かぶき者の行動様式は侠客と呼ばれた無頼漢たちに、
その美意識は歌舞伎という芸能の中に受け継がれていきます。

歌舞伎は近世まで「歌舞妓」「歌舞妃」の字が用いられていて、
「伎」は明治以降に一般化したものです。
そもそも歌舞伎は当て字で「傾く」(かぶく)からきています。
「傾奇者」(かぶきもの)は「奇」に「傾く」者。

この流れで今回は、
歌舞伎から生まれた言葉をいくつか紹介します。

●裏方(うらかた)
歌舞伎の発展・進化に伴って、
しだいに舞台に立つ役者と楽屋で働く「裏方」、
見物席・事務所で働く「表方」に専業化していきました。
「裏方」には、狂言役者(劇作家)、地方(音楽演奏者)、
大道具方、小道具方、衣装方、床山(髪士)などがありました。

●なあなあ
二人の登場人物が内緒話をする場面で、
甲が乙の耳元に口を寄せて「なあ」といい、
乙が「なあ」とうなずき返す歌舞伎の定型的な演技の一つ。
転じて、物事を馴れ合いで行う意味に。
「なあなあ」って現代の若者言葉かと思っていました。

●だんまり
暗闇という設定で、セリフを発っせず、
互いに相手を探りあう演出または場面。
「だんまり」はすっかり現在に根付いた言葉になっています。

●切り口上(きりこうじょう)
歌舞伎の一日の興行の終わりに座頭や頭取が観客に述べる挨拶。
転じて、形式ばった堅苦しい言い方の意に。
また、形式的で無愛想な話し方。
一語一語区切ってきちんと言う言い方。

●大向こうを唸らせる(おおむこうを うならせる)
「大向こう」とは、劇場の舞台から見て正面の後方にある一幕見の立見席。
その席は料金が安く、芝居好きの人が幾度も通って俳優に声をかけました。
そのうち「大向こう」は席で見ている人々も指すようになり、
更に大衆の意味も持つようになりました。
そこから「大向こうを唸らせる」は、
優れた観客の評判を博することをいうようになりました。

●どんでん返し(どんでんがえし)
立体的に飾ってある屋台を90度後ろに倒し、
背景の絵が描かれている底辺を垂直に立てる舞台転換。
そこから、物事が最後になってひっくり返る意に。

●泥仕合
舞台上に泥のプールを作り、その中で泥まみれで行う立ち回り。
舞台に泥とは、当時としては画期的な演出だったでしょうね。
転じて、互いに相手の秘密・失敗などをあばきあう、
醜い争いの意味になりました。

●黒幕(くろまく)
夜や場面転換を表すために黒い幕を張り、
その陰で舞台を繰っていたことから。
そこから “政界の黒幕” のように、
表に出ず、陰で影響力を行使する人の意に。


最後に「侠客」と「無頼漢」の説明をしておきます。

「侠客」(きょうかく)
義侠心を持ち、弱きを助け強きをくじく人。
男伊達(おとこだて)とも言います。

中国において、義侠心をもって人の窮境を救う武力集団を呼んだ呼称。
日本では「やくざ者」に対する美称として用いられました。

幸田露伴は侠客を3つの種類に分けられると述べました。
1、江戸時代初期、武士の横暴に町人の中で気概のあるものが対抗したもの。
2、大名家などに人手を提供する口入(くちいれ)の親方。
3、任侠を売りにするやくざ。

「無頼漢」(ぶらいかん)
ならず者。ごろつき。

「無頼漢」に任侠的なものが含まれているのかと思いましたが、
義侠心などない荒くれ者をいうようです。





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2017年12月22日

修羅場(しゅらば)

1、血みどろの激しい戦いや争いの行われる場所。しゅらじょう。
2、人形浄瑠璃・歌舞伎・講談などでの闘争の場面。

阿修羅と帝釈天が激しく戦った場所を
仏教では「修羅場」(しゅらじょう)と言いました。
ここから戦いの激しい場所や血生臭いことが行われる場所をいうようになりました。

「しゅらば」「しゅらば」と気軽なノリで使っていた修羅場は、天上の物語からきていたのでした。
阿修羅や帝釈天の名前こそ聞き知っていますが、
私はその意味するところには全く無知で、
何故に阿修羅と帝釈天は闘ったの?
という疑問から調べ始めました。

インド神話の中に、アシュラとインドラという神様がいます。
アシュラは正義の神で、インドラは力の神です。

阿修羅には美しい娘(舎脂)がいました。
その娘の美しさに帝釈天は我を忘れて、
強引に自分の宮殿に連れ込んでしまいます。
それに怒った阿修羅が一族郎党を率いて戦を仕掛けます。
インドラは力の神なので勝てるはずもないのに
阿修羅は執拗に戦いを挑みます。
挙句の果てが天界からの追放です。

そういうことでインドでは阿修羅は悪の戦闘神です。
仏教ではその阿修羅が釈迦の教化によって、釈迦を守護する神となります。

「修羅」(しゅら)
一、(仏語)阿修羅(あしゅら)の略。


1、(仏語)「修羅道」の略。
2、激しい戦闘。闘争。争い。
3、大石・大木などを運搬する車。修羅車。
4、丸太を縦に並べて半円形の溝を作り、 その中を滑らせる木材運搬の方法。

16世紀以降 大石などを動かすための道具や装置などを「修羅」と呼んでいました。
http://www.city.uto.kumamoto.jp/museum/10hitugi/hukugen2.html
これは、帝釈天に戦いを挑む阿修羅
→ “大石(たいしゃく)を動かす” という連想から。

「羅」の原意は、
1、あみ
2、網で捕える。
3、並べる。
転じて、
“網目のように織られた薄地の絹の織物” “うすもの” の意に。

「羅」の付く語を拾ってみると、
甲羅・羅列・網羅・羅針盤・一張羅・綺羅・曼荼羅・森羅万象・婆娑羅

物が溢れる時代になって「一張羅」はあまり聞かれなくなりました。
「一張羅」(いっちょうら)とは、“一着しかない上等のもの”
「一挺蝋」(いっちょうろう)が訛った語です。
一挺蝋とは予備のない1本だけのロウソクをいったもので、
ロウソクが高価なものであったことから生まれました。
江戸末期には “たった一枚の羅(うすぎぬ)”
という意味で用いられるようになりました。

「婆娑羅」(ばさら)
鎌倉末期から南北朝の動乱期にかけて、
奇抜で派手な衣装を身に着け、
傍若無人に無作法な振舞いをする風潮が流行しました。
このような目立つ振る舞いをする人たちのことを
「ばさら」と称するようになりました。
「ばさら」の語源はインドから渡来した梵語の
「ヴアージラ」(金剛)に由来します。
非常に硬くて強いことを意味し、
「金剛石」と言うと、ダイヤモンドのことを指しました。
そこから派生して、
“贅沢な” “華美な” “強い” “目立つ” “人目を引く” “良い格好をする” “派手な” “行儀が悪い”
ということまでも指すようになりました。





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2017年12月21日

忽せ(ゆるがせ)

TVのニュースで引っかかった言葉がありました。
「ゆるがせにはしない」です。
「ゆるがせ?」
「ないがせ」ではないの?
調べてみると、
「ないがせにはしない」という語はなくて、
自分の間違いに気づきました。
「忽せ」という漢字も意外でした。

現在では「ゆるがせ」だけで目にすることはほとんどなく、
否定の形の「忽せにできない」で使われています。
“いい加減にできない” こと。

「忽せ」(ゆるがせ)
「いるかせ」の音変化。室町時代までは「ゆるかせ」
1、物事をいいかげんにしておくさま。なおざり。おろそか。
2、寛大なさま。のんびりしたさま。

「緩」の字でもいいような気がしますが、
「忽」の意味するところは?

「忽」コツ・たちまち・ゆるがせ
1、たちまち。にわかに。いつのまにか。
2、いいかげん。気にとめないさま。

“たちまち” と “ゆるがせ”
2つの意味のつながりが見えないなと思っていたところ、
Webにいい解説を見つけました。

1、忽ち(たちまち) → にわかに、急に(副詞的)
2、忽せ(ゆるがせ) → いいかげんにする(動詞的)

「忽」の成り立ちは「心」が「勿」(ない)で、
“うっかりしているようす” をいいます。

新明解漢和辞典には、
とらえ所なく、こちらの気づかないうちに何かが起こっている。
という語感。
とあります。
キーワードは、
“うっかりしている” “気づかないうちに” です。

忽ち(たちまち)とは、
「急に起こった」とか「突然変わった」ということですが、
その原因をたどれば “うっかりしているうちに急に起こった”
“気がつかないうちに突然変わった” のだと思われます。

「忽せ」(ゆるがせ)は、
“うっかりして、いい加減にしている”
“気がつかず、油断している”
と解釈すると2つの意味はつながります。

「忽然」(こつぜん)
1、物事の出現・消失が急なさま。
2、にわかに。とつぜん。

「粗忽」(そこつ)
1、言動に落ち着きがないこと。そそっかしいこと。
2、不注意で起こすあやまち。そそう。

似た音で紛らわしいのが「揺るがしかねない」という表現。
こちらは「揺る」“ゆれる” 意。
ゆるが ‘せ’
ゆるが ‘し’ かねない
1字違いですが、聞き取りミスは少ないかと思います。





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2017年12月20日

追従(ついじゅう)

人のあとにつき従うこと。ついしょう。

「追従」(ついしょう)
人のあとにつき従うこと。
へつらうこと。こびること。おもねること。おべっかを使うこと。

過去に<「ヤヌス読み」の漢字たち>で、
読みの違いで意味の違う熟語を取り上げました。
いくつか復習します。

「分別」
ふんべつ --- ものわかり
ぶんべつ --- 種類ごとに分ける

「気色」
きしょく --- 顔に現れた気持ち
けしき --- けはい。顔色

「一途」
いっと --- ひとすじの道
いちず --- ひたむきなさま

この中に「追従」も入っていました。

「ついじゅう」
人につき従うこと。人の言うとおりに行動すること。

「ついしょう」
人にこびへつらうこと。おべっかを使うこと。

「追従」は元は「ついしょう」と読まれていて、
2つの意味を持っていたのが、
「ついじゅう」と読まれるようになって
意味が分かれたと思われます。

「従」
(慣)ジュウ・(漢)ショウ・(呉)ジュ
中心に対して附属的なもの。

「ジュウ」と読む熟語
従犯・従属・忍従・服従・
従事・従前・従来・従順・従者・従軍

「ショウ」と読む場合の意味と熟語
1、つきしたがう--- 追従
2、縦 -------- 合従
3、ゆったりする--- 従容

「合従」とえいば「合従連衡」(がっしょうれんこう)が思い浮かびます。
その時の利害に従って、結びついたり離れたりすること。

「従容」(しょうよう)
ゆったりと落ち着いているさま。

「追従笑い」(ついしょうわらい)
相手の機嫌をとるために笑うこと。

「追従口」(ついしょうぐち)
相手の機嫌を取る言葉。お世辞。おべっか。


「ついじゅう」と似た表現に「追随」がありますが、
その違いは?

「追随」(ついずい)
1、あとに従うこと。あとから追いしたがうこと。
2、人の業績などの跡を追うこと。

「随」
1、他人の後にそのままついていく。
随員・随行・随従・随伴・付随・夫唱婦随

2、成り行きにまかせる
随意・随時・随想・随筆

「随」は ただ “後についていく” のに対して、
「従」は “服従する” ニュアンスがありますね。






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2017年12月19日

活計(かっけい)

「櫛挽道守」(くしひきちもり)という本を読みました。
木曾山中に暮らす清貧・実直な櫛職人一家を描いた物語です。
何も知らないまま物語に入り込んでいただきたいので
ストーリーは語りませんが、
最後は暖かい気持ちに満たされ涙が溢れました。
今回はこの本の中から拾った語です。

「活計」(かっけい)
1、暮らしを営むこと。また、その手段。生計。
2、豊かな暮らし。ぜいたく。

本の中では「たつき」とルビがふられていました。
「たつき」
手(た)付(つ)きの意。
1、生活の手段。生計。
2、事をなすためのよりどころ。たより。
3、ようす。状態。

生活の手段を、
生業・生活の糧・生活手段・仕事・メシの種・・などと言いますが、「活計」という語は知りませんでした。

「生業」は読みが3つあります。
「せいぎょう」「なりわい」「すぎわい」
「生業」(せいぎょう)という漢語が日本に伝わり、
同じ意味を持つ「なりわい」「すぎわい」という大和言葉に当てられたようです。

「生業は草の種」(すぎわいはくさのたね)という慣用句があります。
暮らしを立てるための職業は、草の種のように多い。

他にも古風な言い方を拾ってみると、
・糊口をしのぐ
・口を糊する(くちをのりする)

「糊口」(ここう)は “粥を口にする” 意から、
細々と暮らしを立てること。生計。よすぎ。

「世過ぎ」(よすぎ)
暮らしていくこと。世渡り。生活。

「身過ぎ」(みすぎ)
暮らしを立てていくこと。なりわい。その手段。

多くは「身過ぎ世過ぎ」と続けて用いられる。
とありましたが、いずれも現在ではほとんど聞かれませんね。


「誅殺」
罪をとがめて殺すこと。

「誅」チュウ
1、罪をとがめて殺す。
2、厳しく責めたてる。

「誅伏/誅服」(ちゅうふく)
罪を責めて従わせること。

「誅伐」(ちゅうばつ)
罪のある者を討つこと。

「誅夷」(ちゅうい)
討ち平らげること。皆殺しにすること。


櫛を挽く場面が丁寧に記述されているのですが、
私には今一つ道具や作業の様子がイメージできませんでした。
Web上に現代の櫛職人の仕事場が出ていました。
http://www.chinacomb.com/japan/orokugusi.html

道具の漢字が読めなくて、
何度も前のページのルビを振り返りました。
私がなかなか覚えられない道具の漢字。
・鍬(くわ)
・鎌 (かま)
・鋸(のこぎり/のこ)
・鉋(かんな)
・鋤(すき)
・金槌・木槌(つち)
・篩(ふるい)

篩は本来は粗い目のものを「通し」、
細かい目のものを「ふるい」と言ったそうです。





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2017年12月18日

読み間違い

最近、いくつか自分の読みの間違いに気づきました。

「灰分」「員数」「平生」「兵糧」「必定」
難解な漢字ではありませんが・・・

「灰分」(かいぶん)
物質を完全燃焼させた後に残る不燃物質のこと。

ハイ---- 遺灰・灰皿・灰色
カイ---- 石灰・冷灰

「冷灰」(れいかい)
火の気がなくなり、冷たくなった灰。

「員数」(いんずう)
1、人や物の数。いんず。いんじゅ。
2、一定の数。

私はあまり「員数」という語を使ったことがありません。
ちょっと使用例を探してみました。
・員数が合わない
・員数を揃える
・10才未満は員数外で保護者が必要
・員数管理を徹底

自衛隊や博物館などでは頻出の語のようです。

「平生」(へいぜい)
ふだん。いつも。つね日ごろ。平素。

濁るんですね。
男性が口にする語のような印象があります。

「兵糧」(ひょうろう)
軍隊の食糧。
リョウ--- 糧途・糧食・糧道・衣糧・食糧・油糧
「ロウ」と読むのは「兵糧」ぐらいのようです。

「必定」(ひつじょう)
1、必ずそうなると決まっていること
2、仏語。必ず成仏すると定まること。

必定の使用例はあまり見つかりませんでした。
・広告収入激減でメディア大再編は必定
・中国政府の怒りを買うことは必定だ
・強引な「集団的自衛権」の行使は火種ではなく、大火となるのは必定

「定」は漢音が「テイ」、呉音が「ジョウ」

「テイ」と読む熟語
改定・確定・規定・協定・決定・限定・肯定・固定・
裁定・暫定・選定・推定・否定・予定・認定・判定・

「ジョウ」と読む熟語
定規・勘定・評定・案の定・

「テイ」のほうが圧倒的に多いですね。

「評定」は読みの違いで意味が変わります。
「ひょうじょう」--- 相談して決めること。
「ひょうてい」----- 価値や価格などを決めること。





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2017年12月17日

思わく/思惑(おもわく)

[一]
1、考え。意図。
2、評価。評判。

[二] 動詞「おもう」のク語法。
1、思うこと。
2、(副詞的に用いて)思うことには。思うには。

「思惑」は読み間違いが多い語の一つですね。
私もよく「しわく」と読みそうになります。
そもそも原義は、[二] のク語法“思うこと”。
「惑」は当て字で、「思惑」という熟語ではないんです。
「惑」に惑わされて誤読が広がったに違いありません。

ところで「ク語法」って何?
苦手な文法に触れなければなりません。

「ク語法」(くごほう)
活用語の語尾に「く」が付いて、名詞化される語法。
「〜(する)こと/ところ/もの」

本来の成り立ちは、
動詞の連体形に「あく」が接続したもの。
「思はく」(おもわく)= 思ふ(おもふ)+ あく
「言はく」(いわく)= 言ふ(いふ)+ あく
「願はく」(ねがわく)= 願う + あく
「宣わく」(のたまわく)= 宣う +あく

「須く」(すべからく)
動詞「す」+ 推量の助動詞「べし」
→ 「すべし」のク語法から。

「すべからく」も意味を間違えている人が多い語です。
意味は、当然。ぜひとも。

「老いらく」
「老ゆ」(おゆ)のク語法「老ゆらく」(おゆらく)の音変化。

「体たらく」
「たらく」は、断定の助動詞「たり」のク語法。

ク語法は平安時代以降には化石化して実体がわかりにくくなったため、
誤用が多数発生しています。

例えば、
「惜しむらくは」
「おしむ」+ 接尾語「らく」+ 係助詞「は」
正しくは「惜しまくは」。

同様に「望むらくは」は「望まくは」。

「願わくば」も間違いで、
正しくは「願わくは」です。
動詞「願う」+ 係助詞「は」
→ ク語法 「願わく」+ 「は」→ 「願わくは」

「あわよくば」などの語に影響されて「ば」になったのでは。
私も「願わくば」と使っていました。
世間では どの程度 間違いが進行しているのでしょう。
“願わくは”正しい言い方が優勢であることを祈ります。




posted by 空凛 at 13:12| Comment(0) | 言葉 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする